A LOCK LEGEND

横「昨日のライブは最高に盛り上がったが、所々は極端に盛り下がり、最終的にはお通夜のようになってしまった」

横「何で俺達のライブはいっつもそうなんだ!」

船「お前のボーカルがなんか盛り下がるんだよ、横山」

横「何!?俺のせいだってのか!?違うよ!!」

船「たとえば、゛Let´s Dreem゛のサビのとこあるだろ。゛果てしない夢を掴むんだ゛ってとこ、」

横「゛ふぁッてしないトゥメをつかむーんだ♪゛」

船「゛ふぁてしない゛はこの際まあいいよ。゛トゥメ゛ってなんだ」

横「何だも何もないよ、感じ出して歌ったまでだよ」

船「そんな変な感じ出すなよ」

横「変な感じじゃないよ!いい感じだよ!!」

所「俺も正直、そこの所ムカっと来るんだよ」

桜「俺も」

横「マジで!?」

船「それだけならまだしも、ラストで歌った、゛夢を夢で終わらせない為に゛なんかお前…」

横「゛トゥメをトゥーメで終わらっせっないトゥメに~トゥ~トゥトゥ~メ~♪゛」

船「お前もう゛トゥメ゛にとりつかれてるじゃねぇか」

横「なんだよトゥメって!!」

船「いや、こっちが聞きたいよ!せっかくノッて来た客も、それが出ると一様に小首を傾げるんだよ」

船「大体、お前の書く歌詞はベタなんだよ。゛夢を掴む゛とか゛翼広げて゛とか、そんなんばっかじゃん」

横「何?違うよ、ベタじゃないよ!」

船「今度の新曲なんか、゛翼広げて夢を掴むぜ゛とか言って、とうとう合体させちゃってるじゃねぇか!」

横「合体ってなんだよ!いいじゃねえかよ別に!!」

船「とにかく、次のライブで変な歌い方したら、もうボーカルかえるぜ」

横「ッえー!?ふざけんなよ!!俺以外の誰にザ・マッドサタンのボーカルが務まるってんだよ!?」

所「実は俺の地元の伊藤に、すげえ歌上手い奴いんだよ」

横「ええー?も、もう目星ついてるー…」

船「アホみたいに高音が伸びるだけがとりえのお前の代わりなんて、いくらでもいるんだぜ」

横「なんだよ寄ってたかって!!ライブが盛り下がるのは俺のせいじゃねえよ!!お前のギターが足引っ張ってんだよ、船越!!」

船「何…!?俺のせいだってのか?違うよ!」

横「お前一曲目のイントロから、いきなり歯で弾き始めるからビックリして、調子狂うんだよ!」

船「何…!?いいじゃねえか、別に!!」

横「俺ビックリして、出だしの゛夢を掴むのは今゛の前に、『うおッ!』って言っちまったじゃねえか!」

(ギュイッギュギュギュギュッギュイーン!!)

横「…うおッ!゛…~めを掴むのは~今♪゛」

横「出だしの所もちゃんと歌えなくて、絶対お客さんに(キャー!!)゛目を掴むのは今゛だと思われたよ!!」

船「お前はちゃんと歌った所で、゛トゥメを掴むのは今゛じゃねえか!!」

所「でも確かに船越、バラードの曲に限って頭メチャクチャ振ったりして、なんかタイミング悪いよなあ」

桜「そうっスね。ライブ後の打ち上げの時になってギター叩き壊すし、ギターソロの所でトイレ行ったりするし…」

横「ホラ見ろ!お前がいけないんだよ!!」

船「違うよ!俺タイミング悪くねえよ!!」

横「とにかく、次のライブでもタイミング悪かったら、もうギターかえるぜ」

船「な、何!?ざけんな、俺のギターあってのザ・マッドサタンだろうが!!俺のかわりなんているのかよ!?」

所「実は熱川のバナナワニ園で働いてる俺のダチが、すげえギター上手いんだよ」

船「えぇー!?もう目星ついてるだとー!?」

横「色んな色のピックを持ってるのだけがとりえのお前より、ずっと使える奴なんだからな」

船「ざけんなよ!ライブが盛り下がるのは俺のせいじゃねえ!!お前にだって責任あるぜ、桜田!!」

桜「えー!?俺のドラムは何も問題ないっスよー!」

船「お前ん家の両親と祖父母が必ずライブとなると最前列で並んで見てるのが気になるんだよ!!」

桜「そんなの気にしなけりゃいいじゃないスかー」

船「全くピクリともならないんだよお前の家族!」

桜「そんな!ノるノらないは自由じゃないスか!」

船「気になるんだよ!呼ぶなよ毎回毎回一番いい席に!!もっとノリのいい奴呼べよどうせなら!!」

桜「船越さんは近くで見た事ないから知らないんですよ、ウチの祖父母はよく見ると揺れてんスよ」

船「それはノってるんじゃなくて特有の揺れじゃねーか!?それに昨日のライブはノるノらない以前に、お前の父ちゃん両腕怪我してたのが気になってしょうがなかったんだよ!!どうしちゃったんだよお前の父ちゃん!!」

桜「実はウチ、今度新築マンションに引っ越すんスけど、父ちゃんが一部屋自分の書斎にしたいとか言い出して、皆反対したら父ちゃん両手で机をバーンって…」

船「お前の父ちゃん腕もろッ!!」

横「桜田ん家の動かない家族には、俺も正直引いてた…」

所「俺も、最前列が常に盛り下がってるのはきついぜ…」

船「ホラ見ろ!皆迷惑してんだ!!」

桜「そ、そんな!違いますよ!俺の家族何も悪くないっスよ!!皆、家ではひょうきんで…」

船「とにかく、今度のライブでまた家族呼んだら、もうお前クビだぜ」

桜「そんな事で!?俺の高速ドラニングあってのザ・マッドサタンじゃないスか!!かわりなんているんスか!?」

横「(ピューウ♪)実は俺の後輩で、下田出身の田中って奴がドラムやっててさ…」

桜「へ、ひぇー!!もう目星ついてんスか!?」

船「どこを叩いても小太鼓みたいな音がするのだけがとりえのお前のかわりくらい、いるんだぜ」

桜「で、でも、俺が思うに、一番盛り下がる原因は、所沢さんじゃないスか?」

所「なんだと?やるってのか?」

桜「いや、やりませんけど、所沢さん、いつも盛り上げる為にライブ中クラッカー鳴らすじゃないスか」

所「盛り上げるといやあクラッカーだろ!!」

桜「クラッカーって、家で鳴らすと確かに盛り上がるけど、ライブ会場で鳴らすと、かえって寂しいんスよ!」

所「さ、寂しいだと!?やるってのか!!」

桜「いやあ、や、やりませんけど」

船「それに所沢が持ってくるクラッカーって、二つに一つはしけってて不発だよな」

所「しけってるだとォ!?ちくしょおおナメやがってえ…」

横「それに昨日のライブなんて、ラストの曲の前にお前…『3発いっぺんに鳴らすぜぇ!!』とか叫んで、」

所「3発いっぺんに鳴らすぜぇ!!」

横「結局3発ともしけってて不発だったじゃねえか」

所「なにいいいいい!?じゃあ、逆にどこに行けばしけってないクラッカーが買えるってんだ!?」

横「フツーにその辺で買えるだろー…」

所「なにい!?普通にその辺で買ってんだよ俺は!!」

桜「じゃあ、所沢さんが懐とかに長時間入れててしけるんじゃ…」

所「俺のせいでしけるだとォ…!?」

船「正直、今度のライブでクラッカー鳴らしたら、もうベースかえたいよな」

横「そうだな…」

所「何い…俺のベースは必要ないってのか…やる気か、てめえら!まさかもう、誰かに目星ついてんじゃ…」

船「俺の知り合いで、伊豆高原の駅前の足湯に浸かってる関口が、ベース超上手くてさ…」

所「っや!!やっぱりついてた!!くそおおおう!!」

横「ギターより弦が太いのだけがとりえのお前のベースのかわりくらい、いるんだぜ」

所「くっそおおおお!!俺はぜってーやめねーぞお!!」

横「俺だってやめねーよ!!」

船「俺だって!!」

桜「俺だってやめないっスよ!!」

ナレ「一ヵ月後」

山「じゃあー、自己紹介から始めます」

山「昨日のライブで、ボーカルの横山さんが゛夢゛を゛トゥメ゛と言ったので、この度、ザ・マッドサタンのボーカルになりました、山岡です。伊藤出身です、どうぞよろしくー。」

横「じゃ、次オレ。熱川から来た、横山です。昨日のライブで、船越さんのギターの弦が、一番盛り上がってる時に限って全部切れたので、今日からこのバンドのギターになりました。よろしく。」

田「えへへへぇ…下田出身の、田中っス。ドラムやってます。昨日のライブに、ドラムの桜田さんの家族が来たという理由で、何故か俺が抜擢されました。頑張ります。」

関「伊豆高原の駅前の足湯に浸かってた、関口です。昨日のライブで、ベースの所沢さんが、ついクラッカーを鳴らしたので、ザ・マッドサタンのベースを任されました。以後、よろしく。」

横「でも、これもう、ザ・マッドサタンじゃないね」

山「うん」

関「俺も薄々そう思ってた」

田「変えようか、名前」

山「そういや俺達、皆偶然、伊豆の出身だよな」

関「あっ…そういえば」

田「伊豆、いず…」

横「イズ…」

全員「E´z(イーズ)!?」

ナレ「E´zはそれなりに売れ、ヒット曲゛悪魔の行進曲~生贄~゛は、オリコン25位を記録した。」

ナレ「ザ・マッドサタンは、何処へ行ったのだろうか。日本のロック・シーンで、儚く輝いた彼らの行方を知る者はいない。実家で暮らしているので、家族は知っている。」