魔導家の人々

「鏡よ鏡、この世で一番美しいのは…」

「この世で一番美しいのはアルルに決まってるだろッ!!」

「あー、ちょっとサタン?ボクん家であんまり騒がないでよ…」

「ぐー!ぐーぐぐー!」

「あはは、カー君ありがとう。ボクなんかよりも、この女優さんの方がずっと綺麗な気がするけど…」

今日はアルル宅で、ビデオ屋で借りて来た様々なジャンルのビデオを、ひたすら観て評価する作業が行われていた。

メンバーはアルル、カーバンクル、サタン、シェゾ、ルルーの四人と一匹。

本当はアルルが、ホラー映画を一人で見るのが怖くて(カー君はホラー映画を観ると騒ぎ出すから逆に怖い)シェゾ一人を呼んだ筈だったが、サタンがアルルの行動を知り、シェゾと二人きりにするわけにはいかず、おまけにルルーもサタンにくっついて来てしまい、四人も揃ってしまった。

見事に四人とも今日の仕事が無く、だらだらと休日を過ごす事になった。

お菓子は全て、シェゾがアルルの家に行く途中にレムレスからもらった物を出した。

途中サタンがお酒をもって来たり、カー君がカレーを出前したりと、未成年のアルルには途方も無い苦労が続いた…筈だった。

一番苦労をしたのは、アルルではなかった。

カー君に自分の頑張って貯めたお小遣いを使われ、更にはサタンにお酒を無理矢理飲まされ、挙句の果てにはルルーに自分が最後に食べようと思って取っておいたモンブランを食べられたアルル。

そんなアルルよりも、致命的なダメージを食らった人物がいた。

シェゾだ。

その惨劇が起こったのは、四人と一匹が揃ってから、4時間も後の事。

ファンタジー物の映画やラブストーリーのドラマも見終わり、とうとうホラー映画に移る事となった一同は、この中で一番根性が座っていると思われるルルーに、ビデオの設置を任せた。

始めはルルーも嫌がったが、サタンに頼まれたとなるといっきに赤面状態となり、直ぐにビデオを設置してくれた。

全員、直ぐに自分の安全な位置を探した。

テレビの前にある黄色いソファにいっきに集まる。

元々は二人座って安らげる大きさのソファの為、四人と一匹ともなると、ややぎゅうぎゅう詰めになる。

まずは中央のやや右にアルル、やや左にサタンが座り、アルルの膝の上にカーバンクル、右にシェゾ、左にルルーが座った。

 ルルーはサタンの左腕にぎゅっとしがみ付き、カー君は相変わらず陽気で、アルルの膝の上でぴょんぴょん跳ねている。

やっと映画の宣伝が終わり、本編へと進んだ。

運が良かったのは、映画の宣伝の所で、ホラー映画が無かった事。

アルルとサタンはごくりと息を飲み、ルルーはサタンの顔をじっくり見つめ、シェゾはぼんやりとサタンの買ってきた鯛焼きをかじりながら画面を見つめ、カー君はただ跳ねていた。

タイトルの文字が現れる。

借りて来たDVDのパッケージの裏を見る限りは、どうやら主人公の少女と少年が、呪われた霊が住むと言われる館に迷い込んでしまう話だと分かる。

一体、どの様な惨劇が繰り広げられるのか…。

「あ、悪いんだがルルー。そこにあるストレートティー取ってくれるか?喉が渇いた」

シェゾは空気を読んでるんだか読んでないんだか。ルルーは苦い顔をしながら、仕方なくシェゾにストレートティーのペットボトルを渡した。

そんな事が自分達の右と左で行われているのは露知らず、アルルとサタンはある程度の平和な映画の世界に心を和ませていた。

ホラー映画だとしても、始めは主人公達の平和な日常が見れている事に、感動を覚えていた。

そしてやはりカー君は、跳ねていた。

アルルはそろそろカー君が騒ぎ出す頃だと思い、ソファの裏にカー君を誘導し、映画が見えない様にした。

少しずつお菓子の数が減っていく中、映画はとうとう、メインとなる館のシーンへと移った。

「あ、アルル…怖くなったら私に抱きついてもいいのだぞ」

「さ、サタン…それはいいよ…怖くなったら部屋出るもん」

「サタンさまぁ、ルルーが怖くなったら抱きついてもいいですかぁ?」

「お前ら…わいわい言ってる間に出てくるぞ、幽霊」

「しぇ、シェゾはいいよね、怖いの平気で!」

そうアルルがシェゾに言った瞬間。

「キャアアアアアアアアアァァァァ!!」

「「ぎゃあああああああああぁぁぁぁ!!」」

ゴンッ!!

テレビから主人公の少女の悲鳴が耳に入り、驚い拍子にアルルとサタンが叫んだ。

画面を見ていなかったのがせめてもの幸運だったが、 シェゾを除いた三人は、ある不自然な音に気付いた。

ゴンッ…?

全員、恐る恐る右を見る。

アルルの、ちょうど隣。

…そこには、シェゾが倒れていた。

「きゃああぁぁぁぁぁぁ!?シェゾぉぉぉぉぉぉ!?」

あごから血を流しており、ソファに思い切り寄りかかる形で、ぐったりしていた。

「しぇ、シェゾ、あごから血出てるよ!!どうしたの!?」

「幽霊にでもやられたんじゃありません?」

「ふっ…愚かな…さぁアルル、邪魔者もいなくなった事だし、このまま魅惑のハネ☆ムーンへ旅たと…」

「だ、駄目だよッ!!シェゾ、このままじゃ死んじゃうよ!!」

ルルーは苦笑した。

「あごから血を流して死ぬなんて…何て格好の悪い死に方ですこと…」

「…というか、あごから血を流して死ぬなんて、普通は有り得ないんじゃないか?」

「う~ん…一体、誰がシェゾをこんな目に…まさか…カー君?そんなワケないか…」

映画をストップさせたので、カー君をソファの裏から取り出すアルル。

三人で、三分ほどあごから血を流して倒れているシェゾを見つめた。

「…ハッ…あ、アルル、お前のひじ…紅くなってないか?」

「え?」

アルルが自分の右腕のひじを見ると、紅い血の様な液体で紅くなっていた。

「…本当だ…何これ…」

 「……犯人は、貴女だった様ね、アルル!」

ルルーがアルルに言う。

「さ、サスペンスドラマみたいに言わないでよ!…にしても、何でボクのひじに血が…」

その時、突然背後から声がした。

「…アルルが…俺のあごにいきなりエルボ食らわしたんだよ…」

三人が声のした方を見ると、そこにはあごから血を流したシェゾ・ウィグィィの霊(?)がいた。

「きゃあああああ!!シェゾが生き返ったあああああ!?いやいや、まさかの幽霊!?」

「死してなおアルルを欲するとは…とてつもない執着心だな・・・シェゾ・ウィグィィ!!」

「もういい加減に成仏なさい、アルルなら勝手に道連れにしなさいな!!」

「……全く…お前ら三人揃って、俺を殺すなッ!!」

三人は、二時間にも及ぶシェゾの説教(ルルーは十分で帰った)により、しっかりとあの時の状況を理解したそうな。

アルルは、あの時、テレビからの少女の絶叫により自分も悲鳴を上げた瞬間、右腕を振り上げ、無意識の内ににシェゾのあごにエルボを食らわせたらしい。

サタンも今回ばかりは悔し紛れにシェゾに「悪かった」と謝ったが、カー君はやはりいつまでも跳ねていた。