ここはオソロ墓地。
墓がいくつも立ち並び、柳の木が生い茂り、不気味な霧が墓を包んでいる。
勿論この場所は、プリンプでは最も恐ろしいホラースポットとなっている。
そして、肝試し大会開始時間一分前という事で、既に参加者が沢山集まって来ていた。
入り口のすぐ横にマイクが立てられ、アコール先生はそのマイクに向かって大会の説明を始めようとしていた。
「…では、皆さん揃いましたか?これより、恐怖の肝試し大会を開催し…」
その時、アミティが沢山の人だかりを割り、先生に声が届く場所まで来た所でこう言った。
「…待ってアコール先生!!」
「何ですか?アミティさん」
「クルークが…まだ来てません」
「クルーク君?…あら、そういえば来ていませんね…来ないって連絡は来てませんか?」
アミティは首を横に振った。
「…連絡は…来てません。クルークは絶対に来る筈なんです!」
アコール先生は小さくため息を吐くと、自分の抱えているポポイに小さく合図を送った。
(クルーク君に異常は無い?)
するとポポイは口一つ動かさず、アコール先生にこう伝えた。
(アイツの家の方からヘンな気配がするニャ 絶対に何かあったニャ)
(…そうね…一応、手は打っておくわ。ありがとう)
(礼には及ばないニャ)
すっとアミティの方を向くと、アコール先生はこう言った。
「…アミティさん、クルーク君はこの大会のルールを知ってる?」
「はい…あたしがクルークに口頭で伝えました」
「そう…なら、安心ね。分かったわ、クルーク君の順番は後ろの方に回せばいいとして…とりあえず大会の説明を始めてしまいましょうか。」
「あ、はい!有難う御座います、アコール先生。それにポポイも…」
(な、何で二人でこそこそ話してるのがバレたんだニャ!?)
(うふふ…この子は聞こえる方なのよ。今後、憶えておくといいかもしれないわね)
アミティはペコリと頭を下げると、元の場所まで戻っていった。
「…はい、ではお待たせしました、参加者の皆さん。では、この大会のルールを復習していきますので、どうぞ憶えてから大会にご参加下さい…」
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「あっれー、キミ、クルーク…だっけ?何してんのー?」
クルークがオソロ墓地に向かっている途中、彼の目の前に白い霧の様な二つの物体が現れた。
あまりに突然の出来事だった為に、クルークは驚いた拍子に後ろにふんぞり返りそうになった。
「うわあぁぁッ!!?お、お前らは…噂の幽霊双子ッ!?…ま、全く…学生を驚かすなよ…しかも全てにおいて学年No,1のこの僕を!!」
クルークは眼鏡を押し上げながら焦っているが、内心は体勢をなんとか保っていたのに安心している様子だった。
彼を驚かせたのは、オソロ墓地に住みついていると言われる双子の幽霊、ユウちゃんとレイくん。
二人でお揃いの白い頭巾をかぶり、今日も騒ぎ放題の気分らしい。
「えっへへぇ~☆やったぁレイくん!!本日二回目の驚かし作戦せいこーっ!!」
「やったねユウちゃん…驚かし作戦成功…」
二人は全く悪気の無い様子で、相変わらず宙をふわふわと浮いている。
その悪気の無さっぷりにクルークは心から呆れ、仕方なく、説教しようとしていた自分の心を抑えた。
「…もういい!僕は急いでるんだ、君達はほら、早くどいて!!僕の邪魔をするんじゃない!」
クルークは二人の幽霊を手で押しのけて、すぐさま目的地へ向かおうとした。だが、二人の幽霊はその場所をどこうとはしない。
「ええーっ、ちょいとおにーさん!!聞いて下さいよっ!!僕らの忠告、聞いていきません?」
「忠告…聞いた方がいいと思う…」
クルークはその゛忠告゛という言葉に反応した。
「…なんだよ、その゛忠告゛って。どうでもいいことだったら、今度こそこっぴどく説教してやるからな」
クルークは二人の方に振り返ると、仕方ないから聞いてやるか、とでもいいたそうな顔で双子を見つめた。
「…おにーさん、オソロ墓地に行くつもりなんでしょ?」
「…?ああ、そうだよ、それがどうかした?」
「行かない方がいいよ、オソロ墓地!」
あまりにもすっぱりと言われた為、クルークは思わず首を傾げた。
「…はぁ?」
「…オソロ墓地…君にとって嫌な雰囲気が漂ってる…ねぇ、ユウちゃん…?」
「そーなのそーなの!!ってことで自称秀才のおにーさん!良い子はおうちに帰りましょ!」
「その忠告は信じないぞ…家に帰ったら…アイツがいるんだ…今墓地に行かないと、僕に危険が及ぶとかなんとかって、アイツが…」
クルークは下を向きながら、ボソボソとそう言った。
「だーめだよ!今墓地に行ったら、おにーさん無事で帰れるか分かんないよー」
「んな事言われても…無理だろ家に帰るなんて…」
クルークはふと、もしかすると自分は今、運命の決断をしようとしているのかもしれない――と思った。
こいつら双子の言う事を聞いて、家に帰ってみるか…
それとも、アイツの言う事に従って、オソロ墓地に向かってみるか…
まぁ、どちらにせよ危なそうな事に変わりは無いが。
「さーあおにーさん!!決断をして下さいな!」
「好きな…方を…選んで…」
クルークは思い出す。いつも自分が迷った時に、自分の代わりに決断を下してくれたのは、アイツだったっけ…と。
赤い魔物の化身は、今自分の手元にはいない。あるのは、アイツが元いた赤い本だけ。
「…迷うなぁ。」
周りにはあまり知られていなかったが、クルークは生まれつきの優柔不断な男子なのだ。
一人で考え込み過ぎると、頭に血が上り、結局は誰かに決断を求める。
10分程考えた末、クルークの頭は、結局アイツ…赤い男の判断に身を任せることを選んだ。
最も近くにいた存在の方が、まだ安心出来ると思ったからだ。
「……ごめん。今回は、アイツの言う事を聞く事にする」
ユウちゃんは一瞬、しゅんとした表情をしたが、すぐに明るい顔に戻し、こう言った。
「わっかりましたー!!ボク達が役に立てなくて残念だったけど、なんかやっぱり心配だから、おにーさんに付いていくよ!」
「間違って死んじゃったりしたら…ボク達みたいに…なっちゃうから…」
クルークはレイくんの発言に一瞬ゾッとしたが、忠告をしてくれた礼と言う事で、二人の同行を許可した。
「ああっ、ヤバい!!もう大会が始まってる頃だ!!急ぐぞ!」
「イエッサー♪」
アコール先生の大会の説明が始まってから、五分が経過していた――――…。
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クルークの家では、赤い波動と黒い波動が、今だにぶつかり合っていた。
「ねーえ赤いお兄さん。そろそろやめとかない?こんなんじゃ僕達、戦うだけ戦って共倒れだよー?」
黒い人型の物体は、青い光を放ちながら、赤い男に言った。
「…そう言って貴様は、クルークの所へ向かうつもりなのだろう?そんな事は既にお見通しだぞ」
赤い男は、額から汗を流しながらも、自分の居場所を守る為に、懸命に相手の攻撃に耐えていた。
「うっふふふ~♪僕より生きてないのに、よく短時間で僕の思惑を見通したねぇ。でも、僕そろそろ疲れちゃったなー」
ニヤニヤしながら黒い存在は赤い男に言うが、赤い男は相手に返事を返す余裕が無くなって来ていた。
赤い男の体力に、限界が来ていたのだ。
黒い光を纏った相手は、赤い男にトドメを刺す準備をしていた。
「ごーめんねぇ赤いお兄さん♪もうちょっとお兄さんと遊んでたかったんだけど、僕も、実はけっこー急いでるんだよね。…だから、」
赤い男の周りに、青い線で描かれた魔法陣が浮き上がった。
「!!しまッ…」
赤い男が防御をしようとした時には、もう遅かった。
「イイイイーミテーションッ!!」
黒い光を纏った相手がそう叫んだ瞬間、青い魔法陣はその言葉に反応し、効果を発揮した。そして、
青い光が赤い男を容赦なく攻撃した―――――。
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現在オソロ墓地で行われているアコール先生の『大会についての主な説明』は、そろそろ終わりを向かえようとしていた。
「…なので、優勝景品は秘密…という事で。皆さん、優勝を目指して頑張って下さいね♪」
「はーい!」
アミティ等のクラスメイト組の元気な返事が聞こえた辺りで、何やら奇声の様な声まで一緒に聞こえて来た。
「…あらあら、今度は何かしら?シグ君の声の様ね?」
「よく見るニャ。作戦が成功したみたいだニャ」
アコール先生とポポイの言う通り、奇声を上げたのはシグ。
肝試し大会の会場に、クルークと双子の幽霊が来場していたからだ。
「ゆ、ゆゆゆゆ幽霊…ッや、やっぱり駄目だ…怖いッ……」
シグはほぼ半泣き状態でアミティの後ろに隠れ、幽霊の双子を直視できずに、顔を真っ青にして怖がっていた。
「あわわわわ…し、シグ、大丈夫だよ!この幽霊さん達は怖くないってば!!べべべ別に驚かしたりしないし、悪い事もしないしッ…」
アミティは必死でシグを落ち着かせようとするが、自分がシグにしがみ付かれているのにパニックになっており、どちらかというと自分を落ち着かせるのに必死になっていた。
「うーらめーしやーぁ!!」
「うらめしや~…」
「「ひィいやあああああああああッ!!?」」
ユウちゃんとレイくんは急に心霊モードになり、幽霊の本気を出して二人を驚かした。
アミティとシグは真っ向に幽霊の本気の怖さを目撃し、そのまま仲良く二人で後ろに倒れてしまった。
「あなたたち、本ッ当にそういう所は酷似してますわよね…」
ラフィーナは呆れながらそう言う。
「ハァ…全くだよね。まあ、君も間抜けな所は彼らと似てるんじゃないかい?」
「!!あっ、あなた…ね…!!」
ラフィーナが背後にいる彼の存在に気付いたのは、その時だった。
「クルーク!!さっきのは謝りますけど、今のは聞き捨てなりませんわよ!!」
「フッ、君みたいなお間抜けさんにはお似合いさ、シグとアミティは。僕の様に優秀で冷静沈着で何でもグレイトに実行できるパーフェクトな人間になりたければ、僕に似る様に日々努力する事だね!!」
「くうう~ッ!!黙りやがれですわガリ勉野郎!!あなたにだって数え切れない程、短所はありますわよ!!」
「なんだい、言ってごらんよ!!魔導の成積か!?皆勤賞の受賞数か!?図書館の本の貸し出し回数か!?笑わせるなよ、僕は全てが完璧さ!!」
ラフィーナは咳払いを一回した後、こうクルークに言い放った。
「視力、センス、礼儀正しさ、我慢強さ!!この四つは絶対に、あなたにとって欠けているモノですわ!!」
「!!…い、言ってくれるじゃないかこの暴力女!!何が礼儀正しさだ!!僕は、きちんと目上の人に対して礼儀正しくしてるぞ!!特にレムレスとかアコール先生にはな!!」
「あなたが持っていない礼儀正しさ…それは、友への最低限の優しさですわ!!そういう礼儀正しさがあなたにはありませんのよ!!ザマぁ見ろですわ!!オーホッホッホ!!」
「いや…お前、そういうのは礼儀正しさって言わないだろ!!友情の厚さとかそういうのだろ!!」
「何とでも言えばいいですわ、おバカなクルーク!!いつまでも本の虫を気取って一人寂しく本に噛り付いてろですわッ!!」
「…コホン。…ククククレ・ランス(チョークを投げる)!!!」
「「ギャアアアアアアアァァァァァ!!!」」
コンコンッ!!
アコール先生の放った、教師としての愛の一撃は、クルークとラフィーナの額へ見事直撃した。
二人の叫び声が消えると、周りの声が一瞬にして途絶えた。
さっきまで奥の方にうずくまっていたリデルが、懸命に倒れた四人を助けようと駆け寄り、回復呪文を唱えている声のみが会場に響いていた。
「えー…では、皆さん。ようやく参加者全員が揃った様なので、これより第一回プリンプ魔導学校主催・肝試し大会を開催したいと思います!!」
「これから順番を決めるま。皆さんにはここにある私特製のくじを引いてもらうま」
あくまが出した超巨大くじ引き箱の周りに、次々と人だかりが出来る。
アコール先生はもの凄いスピードでアミティ達のもとへ駆け寄り、四人が絶対に起きる、魔法の言葉を発した。
「…あら、レムレスさんが、太古の昔に消滅したと言われている希少な虫と、世界の豪華エステツアーを一年間体感する事の出来る超豪華エステツアーフリーチケットと、溢れかえる程のお菓子を持ってやって来ましたよ~。」
「何だって、レムレス!?」
「太古の昔の虫~?」
「ご、豪華エステツアー一年分ですって!?」
「わー!!お菓子ー!?」
「…あ、皆さん…お目覚めになられたんですね……きゃっ」
リデルが四人に笑顔で話しかけようとしたが、四人の起き上がった時の爆風に押され、尻餅をついてしまった。
「「「「アコール先生!!何処ですか!?」」」」
四人同時に放たれたその声は、肝試し会場にとてもよく響いていた…。